他の記事で散々、長瀞を箱庭に例えてきましたが、箱庭という言葉自体が最近忘れられつつあるかもしれません。本来の箱庭とは江戸時代後半頃に発祥し、その後流行した日本独自のミニチュア模型の一種で、底の浅い木箱の中に自然景観や庭園などのミニチュアを表現するものです。単なるミニチュア模型と箱庭との違いは、枠があることです。前後左右に同じ高さの枠があることによって、模型そのものだけではなく、その設置してある空間自体を作品としてとらえることが可能になります。
長瀞地方全体を眺めてみると、その中心となるのはもちろん南北に流れる荒川と長瀞岩畳などの河岸の岩石群です。荒川に並行して秩父鉄道が走り、鉄道駅周辺には民家・観光施設・農地などが点在しますが、それらの面積はわずかです。そして高い建物や大きい建物は全くといって良いほど存在しません。それ以外はほとんど森林地帯です。
長瀞地方は四方を山によって囲まれています。そして、それらは全て高さ500メートル前後です。南北8km、東西4km、高さ500mの長方形の巨大な菓子折りと言って良いでしょう。この菓子折りの中に作られた箱庭は、平地にいる限り見ることができません。長瀞の箱庭を鑑賞する手段は2つあり、一つは周囲の山々をハイキングすることです。長瀞周辺の山々はほとんどがハイキングコースとなっており、ほとんどが日帰りの登れる初級者コースです。もう一つは長瀞唯一のロープウェイ、宝登山ロープウェイに乗る方法です。2007年三峰ロープウェイが廃止されたことにより、宝登山ロープウェイは埼玉県で唯一のロープウェイになりました。
名称:宝登山ロープウェイ(ほどさんろーぷうぇい)
住所:埼玉県秩父郡長瀞町長瀞1766−1
最寄駅:秩父鉄道 長瀞駅 徒歩20分
営業キロ:832m
高低差:236m
定員:50名(着席16名・立席34名)
始発:9:40
最終:17:20
片道料金:大人490円、小人250円(6~11歳)
往復料金:大人830円、小人420円
片道所要時間:約5分
駐車場:普通車1日500円、150台
長瀞駅から宝登山ロープウェイへの行き方
長瀞駅から徒歩で宝登山ロープウェイ山麓駅へ
長瀞旅行の中心地長瀞駅から宝登山ロープウェイの乗車口までは徒歩20分です。基本的に案内表示もしっかりしており、宝登山参道を進むだけですから迷う心配は無いと思いますが、簡単に説明します。
長瀞駅は線路の西側に駅舎があります。駅舎の前は小さな広場になっており、駅前の道の先に大きな鳥居が見えますので、そちらへ真っすぐに歩いて下さい。鳥居の前は国道が横切っています。国道は信号機のある横断歩道を渡り、鳥居をくぐって更にまっすぐ進みます。突き当りに宝登山神社と宝登山ロープウェイの分岐があります。車道標識通りに進んでも良いのですが、徒歩の場合、一旦宝登山神社の方に進んでから、中の遊歩道を通った方が近道です。宝登山神社からロープウェイへの遊歩道の前にも標識がでています。
長瀞駅からシャトルバスでロープウェイ山麓駅へ
長瀞駅は全てがコンパクトにまとまっています。駅舎も小さく、そこから繋がる商店街・名勝長瀞岩畳まで狭い範囲にまとまっています。駅前右手には長瀞観光案内所その間はアスファルトの狭い広場があり、一応それが駅前のロータリーの役割を果たしています。その広場の手前にシャトルバス乗り場があり、シャトルバスは15分から30分刻みで往復しています。ただシャトルバスは基本的に土日祝日しか運行していません。宝登山ロープウェイの公式ホームページでその月別のシャトルバス運行日が掲示されますので、正確なシャトルバス運行情報を知りたい場合は、そちらを参照ください。シャトルバスは黄色のマイクロバスで、駅前広場も小さいのですぐに判別できると思います。駅前に黄色いマイクロバスを見つけたら、座って発車を待つだけです。
長瀞まで車で来た場合のロープウェイ山麓駅へのアクセス
上の地図は長瀞駅前交差点から宝登山ロープウェイまでの車でのアクセス図です。赤い矢印は国道140号線を経由した場合を表していますが、もちろん秩父方面から国道140号線を北上してくることもできます。関越自動車道花園インターからここまでのアクセスは以下のページを参照してください。
長瀞へのアクセス2:関越自動車道から長瀞へ高速道路、すなわち関越自動車道を使い花園インターを降りた場合、国道140号線に出ますが、国道140号線は二つに分かれ、一方は有料道路になります。一般道の国道140号線ルートの場合、図1では北端の寄居方面と書いてある方角から南下してきます。有料道路の国道140号線を使った場合は、図1では南端の秩父方面から北上することになります。寄居方面、秩父方面いずれから来ても、長瀞駅前交差点で曲がり、宝登山神社の参道を西に進みます。長瀞駅前交差点の目印は、前項で写真1にある宝登山参道の大きな鳥居です。その前を横切る道路が国道140号線です。
寄居方面から長瀞に来た場合は写真1の右方向から来ることになります。その場合、鳥居の信号を右折します。反対に秩父方面から長瀞に来た場合、写真1の左方向から来るため、鳥居前の信号を左折です。その後数分直進すると小さなロータリーがあります。標識の案内通りに、左手の小道に入ると突き当りが宝登山ロープウェイ山麓駅の駐車場です。宝登山ロープウェイの駐車場は150台駐車できる長瀞で最も大きな駐車場です。
長瀞のロープウェイの見どころ
前節で長瀞駅から宝登山ロープウェイ山麓駅まで、最短の行き方を紹介しました。しかし、道沿いにはたくさんの見所があります。それらを全部紹介するとボリュームが増えすぎますので、今回は省略します。それらは宝登山神社のページと一緒にするか、別ページを作って紹介したいと思います。当サイトの既存のページでは「SLパレオエクスプレスでの日帰り長瀞旅行」に簡単な紹介がありますので参考にしてみて下さい。
SLパレオエクスプレスでの日帰り長瀞旅行今回紹介するのは、ロープウェイで山麓駅から山頂駅まで登った後の見どころと、ロープウェイ搭乗中の景観の魅力についてです。まず長瀞全体でいうと、ライン下りやラフティング、カヌー、そして名物のかき氷を賞味するに適した夏場が繁忙期ということになりますが、長瀞のロープウェイに限っていうと、冬から春にかけてが最も人気のあるシーズンです。冒頭で長瀞の箱庭的景観がロープウェイの最大の魅力というような事を述べましたが、そのようなことを言っているのは私くらいのもので、多くの人の最大の関心事は、宝登山山頂のロウバイや梅などの花々であるようです。
宝登山山頂部一帯、つまり宝登山ロープウェイ山頂駅から宝登山山頂までの緩斜面の面積はかなり広く、長瀞岩畳商店街の一帯がすっぽりと収まるほどの広さです。蝋梅園(ロウバイ園)だけでも1万平方メートルの広さで、関東一の品種を誇る梅百花園、シャクナゲ、フクジュソウ、ツツジなどの植生地があります。さらに宝登山神社の奥宮、宝登山小動物公園、レストハウスなどが点在しています。これらの中で有料なのは宝登山小動物公園だけで、他は自由に見て回れます。
名称:宝登山小動物公園(ほどさんしょうどうぶつこうえん)
住所:埼玉県秩父郡長瀞町長瀞2209-6
場所:宝登山ロープウェイ山頂駅から北へ徒歩7分
入園料:大人500円 小人(3歳から小学生)250円 ※ペット不可
営業時間:10:00-16:30
小規模ながら、60年以上の歴史のある長瀞エリア、秩父エリア唯一の動物園です。目新しい希少動物などはほとんどいませんが、この場所で入園料をとってこれだけ長い年月経営し続けるのはすごいことです。それだけのノウハウの蓄積と見せ方の工夫がされているということです。
名称:宝登山神社奥宮(ほどさんじんじゃおくみや)
住所:埼玉県秩父郡長瀞町長瀞
名称:宝登山レストハウス(ほどさんれすとはうす)
住所:埼玉県秩父郡長瀞町長瀞
宝登山ロープウェイ山頂駅からすぐ北にある無料休憩所です。土日を中心に不定期に営業しており、営業日には軽食などの食堂に変わります。昭和の風情漂うレストハウスですが、施設の東側に長瀞方面を見渡せる大きなテラスがあります。レストハウスは長瀞の斜面から高く競りあがっており、レストハウスのテラスは長瀞の展望台としては最高のシチュエーションです。
長瀞のロープウェイの強みは、なんと言っても他の観光地が閑散期である冬場から花が咲き続けることでしょう。12月末から2月末までという長い期間に渡り、淡い黄色のロウバイの花々が斜面を覆いつくします。派手で密度の濃い桜やツツジなどに比べると地味ではありますが、薄く霧のように広がるロウバイの群生は、より周囲の山並みにあっているような気がします。アルプスの高山地帯には派手な園芸植物よりも、はかなげな高山植物が似合うように、長瀞の500m程に揃った、心落ちつかせる里山の景観にはロウバイの淡い色彩はもっとも似合うと言えるでしょう。ロウバイが咲き終わる前の2月上旬からは、梅百花園(うめひゃっかえん)の梅とロウバイの競演が見られます。梅百花園では、170品種というとてつもない種類の梅が次々と花開いていくため、一日たりとも同じ景観にはならないという楽しみがあります。梅百花園は3月下旬まで花を開かせ続けます。梅の開花は福寿草(フクジュソウ)の開花時期にも重なります。4月については長瀞全体が桜の名所ですから、下界に主役を明け渡すことになります。
しかし4月の下旬からはツツジ、それに少し遅れてシャクナゲという奥秩父の亜高山帯で多く見られる花々を見ることができます。ロウバイ・梅・ツツジ・シャクナゲという選択については、宝登山の景観とのマッチングを考慮し、綿密に計算されたもののように感じます。12月から6月という長期間に渡り、ロープウェイの乗客を飽きさせない最高のラインナップではないでしょうか。
宝登山ロープウェイと山頂付近の花々・観光施設の魅力については、ここで逐一説明するよりも、宝登山ロープウェイの運営会社、宝登興行株式会社が作ったPR動画を見ていただくのが一番良いでしょう。この動画は非常に良くできた動画です。上で説明した観光施設や四季の花々について余すことなく、かといって過剰に見せすぎず10分弱の時間にコンパクトにまとめられています。
一般的な見所の話をしたところで、ここでまた冒頭の長瀞箱庭説に戻ります。
ロープウェイから見渡せる箱庭長瀞とは
箱庭長瀞とは私が勝手に言っていることで、他ではどこにも書いていないでしょう。以前国土地理院の5万分の1地形図「寄居」を漠然と眺めていて面白いことに気づきました。国土地理院の5万分の1地形図とは日本の国土全体を5万分の1に縮小した地図を切り売りしているもので、大きな書店などで販売しています。長瀞地方は5万分の1地形図では「寄居」に含まれます。地形図は同じ高さを結んだ等高線が一面に描かれているのが特徴です。長瀞地方のような山地は等高線の曲線で埋め尽くされています。それらの曲線の中に不自然な直線が描かれていました。定規で引かれたような太い直線です。その直線は地図に平行して描かれており、長さは2cm弱、実際には1km弱の距離にあたります。すぐにそれは長瀞のロープウェイであることに気づきました。つまり長瀞のロープウェイは完全に東から西へ一直線に建設されているということになります。もちろんロープウェイは人工物ですから、そのように狙って設計されたのでしょう。もう一つ気づいたのは、ロープウェイ山頂駅のほんの少し北西に宝登山山頂と宝登山神社奥宮があります。そして山麓駅の北東には宝登山神社本宮があります。奥宮と本宮に線を引くと、その線はロープウェイと完全に平行線であることがわかります。すなわち本宮の真西に奥宮が建てられたことになります。ここまでは人間が作ったものですから、意図的にしても偶然にしてもそれほど騒ぐほどのことではありません。
更に今度は、この線に平行平行した線を宝登山山頂から長瀞・荒川方向に引きます。その線は長瀞岩畳の少し上流部、長瀞駅と上長瀞駅の中間くらいで荒川に交差します。そしてさらに延長すると、その直線は釜伏山の山頂にぶつかります。それだけではなく、宝登山から荒川までの距離と、荒川から釜伏山の距離はほぼ同一でいずれも地図上で4.5cm、実際には2.25kmということになります。このような偶然があるでしょうか。
釜伏山は宝登山ほど有名ではないものの、長瀞東部の山々の中では山頂の形が特徴的で、山頂付近に神社がある山域を代表する山です。荒川両岸の代表的な2つの山の頂は、荒川から全く同距離で、東西のライン一直線上に位置していることになります。さらに宝登山、釜伏山の双方からそれぞれ南北に稜線が伸び、箱庭の東西の長辺を形作ります。では南北の短辺は何かというとになりますが、北の壁は岩畳からもよく見える雨乞山とその稜線です。南の壁は美の山公園で有名な蓑山が該当します。
長瀞はこれらの四辺で囲まれた縦長の長方形と見なすことができます。この長方形はちょうど平安京2つ分に相当します。宝登山山頂からはあいにく樹木によって西側の展望が遮られますが、山頂手前の斜面からは釜伏山を含む長大な稜線が眺められます。平安京の西の城壁から東の城壁を見渡していると想像するのも面白いと思います。
長瀞で最もおすすめの旅館:長生館