自分で旅行プランを立てるとき、必ずしもテーマは必要無いように思えますが、テーマを先に考えたほうが、旅行計画を立てやすい場合が多いですし、興味のないスポットに時間を取られる失敗も減ります。何より旅行テーマを考えることは、自分の興味のあることを整理したり、旅行の意義を考える良いきっかけになります。
旅行計画とテーマ
旅行の具体的な計画を立てる前に、テーマを決めておくことは重要です。旅行の計画は他人、例えば旅行会社や知人に依頼したり、あるいは当サイトのような旅行指南サイトが作ったものを、そのまま使うこともできます。しかし旅行のテーマは旅行者本人にしかきめられません。
やりたいことが完全に一つに絞れている場合は、旅行テーマはそれほど重要ではありません。例えば富士山を登頂したい、ディズニーランドに行きたいという場合であれば、そこに行くための交通手段を調べ、具体的な計画を立て、準備をするだけです。
しかし、北海道旅行、九州旅行などのように漠然とした旅行を考えている場合、計画を立てるのはなかなか難しいものです。それらの地域の中にも無数の観光スポットがあり、交通手段も数多くあります。そうした場合、テーマをたてることによって計画しやすくなり、自分の興味のない場所に行ったり、無駄な時間を過ごすという失敗が少なくなります。
本来であれば、まず旅行者本人が旅行テーマを決定し、そのテーマに沿った旅行ルートを見つけ、その旅行ルートを実現するための具体的な旅行計画を立てるという流れになります。
しかし実際には旅行ルートや旅行計画よりも、旅行テーマを決めることの方が難しいものです。間違った旅行テーマを作ると、旅行そのものの楽しみがそこなわれ、下手すれば、自分自身にとって全く意味のないものになりかねません。
例えば「信州3日間秋の味覚を楽しむ旅」というテーマを立てたとして、本当にそれが自分にとって必要なことなのか、時間とお金をかけて旅行に行くべきなのか?他にもっとやるべきことはないのかという疑問がわきます。
美味しいものを食べるだけが目的であれば、旅行費用を全て食費にまわし、自宅近くの高級レストランで贅沢した方が満足できるかもしれません。自宅にいても通販で全国の食材を入手できる時代です。そこには、なぜ信州まで旅行するかという自分なりの考えがなくては、無意味なテーマということになってしまいます。
突き詰めると、なぜ旅行するのかという大きな問題になることに気づくでしょう。
旅行テーマと5つの欲求
アメリカの心理学者マズローの5段階欲求説、つまり人間の欲求は5段階に分類できるとした学説は有名です。人間の無数にあると思われる欲望、欲求、望み、やりたいことといったものを5つに分類し、5段階のレベルをつけたものです。
それはレベルの低い順に次のようなものです。
- 生理的本能的欲求
- .安全の欲求
- 社会的集団に属する欲求
- 他人に評価される欲求
- 自己実現の欲求
この5つに人間の全ての欲求が表されているならば、旅行したいという欲求もいずれかに当てはまるはずです。旅行の要素の一部分としては、確かに1や4、場合によっては2や3も当てはまりますが、根本的な旅行の本質は5番の自己実現の欲求そのものでしょう。
旅行で美味しいものを食べたい、快適なホテルに滞在したいというのは1や2に当てはまりますが、これらの欲求を満たすだけならば、普段の食費や自宅の住空間にお金をかけた方が良いですし、旅行で散財するのは矛盾します。
3の「社会的集団に属する欲求」については旅行はむしろ、会社や家庭などの普段自分のいる社会的集団から離れる行為です。バスツアーなどの参加者は、旅行の目的が3になっている場合もありますが、多くの場合は3を満たすために旅行はしないと思います。
4の「他人に評価される欲求」は、旅行の自慢話をしたり、SNSに旅行記をアップしたりする行為が該当しますが、これが大きな落とし穴です。旅行の内容を評価されれば、その時は気分が良いでしょうし、ある程度満足できるかもしれません。しかし他人の評価するポイントが、自分の本当にしたいことと一致するとは限りません。他人の評価を気にすると、自分の本当にしたいことと離れてしまう危険性があります。
旅行のテーマ作りで重要な点は、旅行の本来の目的である自己実現をメインにおくべきです。1から4の欲求にまどわされることなく、本当に自分がしたいことにスポットライトをあてることが必要です。
旅行のテーマと実現性
旅行のテーマは自分の興味あること、したいことがメインにすべきことは間違いないことですが、実際にできることは限られています。まず多くの人の場合、時間的にも資金的にも制約があります。仕事をしている人の場合、まとまった休みをとることは、簡単ではありません。
テーマは自分の興味のあることといっても、何でもかんでも良いわけではありません。北極探検のようなテーマをたてても、まとまった休みが取れなければ机上の空論でしかありません。限られた時間と資金を考慮すると、自宅から近い旅行地のほうが実現しやすいのは間違いありません。交通費も安く、移動時間も少ないので、その浮いた時間と資金で充実した行動をできるからです。
海外旅行の場合、移動時間や旅行代金も国内旅行より多いのはもちろんですが、それに加えて言葉の問題や、現地での交通の問題もあり、テーマの実現性は低いと言えます。このような問題を解決するのが、旅行会社が実施する添乗員同行のパッケージツアーですが、これらのほとんどが募集型企画旅行のため、旅行者個人が考えたテーマなどは考慮してもらえません。旅行会社には受注型企画旅行という旅行商品もあり、これは旅行者が考えたテーマはもちろん、旅行日程の細部に至るまで旅行者の希望を考慮してくれる素晴らしい商品ですが、これは旅行代金がかなり高くなります。テーマの実現性を考えた場合、資金に余裕があるかたは、受注型企画旅行も検討する価値はあります。
国内旅行はそれらの問題も少ない上、事前情報も得られやすいので、格段にテーマの実現性は高くなります。
旅行テーマ作成の手順
まず、自分が用意できるお金と時間を念頭に入れ、ある程度エリアを絞り、それに合わせたテーマを決めて行くことになります。テーマを先に作るといっても、実際には計画と同時進行することになります。
テーマだけが先行しても失敗しやすくなりますし、計画だけが先行しても、自分の興味からそれてしまうことになります。まず大まかな自分のやりたいことをイメージし、旅行エリアを絞り、それに合ったテーマを見つけ、さらに、テーマにあった観光スポットを探すという作業を交互に何度も繰り返しつつ、旅行テーマと旅行計画を徐々に具体化して行くのです。
テーマ作成の前に、自分の人生の目標や、趣味、関心のあることなどを一覧表にしておくことも良いと思います。ただし旅行においては、自分の今までの趣味嗜好とは畑違いの分野で新たな発見をすることも多く、あくまでその一覧表は参考程度と考えてください。
適当に旅行計画を作った場合、どうしても自分の現在の趣味や関心のあるものばかりを繋げてしまいます。むしろその一覧表の項目はあえて外し、テーマを作成した方が面白いと思います。心のどこかで、昔から関心があったものの、いままでの人生で関わるチャンスがなかった事柄などに焦点を集めると良いでしょう。
旅行テーマ作成の上で軸となる事柄
非日常の体験を意識した旅行テーマ
旅行テーマを作成する上で重要なポイントは、いかに日常ではできない体験をするかを念頭におくことです。旅行まで普段と同じ生活を継続するだけでは、あまり意味があるとは思えません。
毎日満員電車で、自宅と会社を往復するばかりの人生をおくっている人にとっては自然豊かな郊外に身を置くだけで充分に満足できるかもしれません。逆に農村に住む人にとっては都会の生活こそが魅力的に映るかもしれません。何が日常で何が非日常かは人によって違います。ガイドブックや旅行会社の旅行プランには、旅行者個人の日常などは考慮されていません。それこそが旅行計画を決める前に旅行テーマを決めるべき大きな理由です。限られた日数を有意義なものとするためには、テーマ作成の段階で非日常ということを忘れてはいけません。
非日常体験ということを考えた場合、旅行エリアを自宅から近く設定すると、あまり効果がなくなりますので、ある程度の遠隔地の方が達成しやすくなります。近隣の場合、一つには文化圏が近い点と、情報が多く未知の部分が少ないからです。しかし近隣県への旅行が悪いという意味ではなく、近隣県を旅行エリアに設定した場合、より一層、非日常性を中心に据えたテーマにする必要があるということです。逆に言えば環境が全く違う海外旅行などの場合、非日常性を意識したテーマにしなくても、自動的に非日常体験ができるのは明らかです。
国内旅行においても、西日本に住んでいる人は東日本へ、東日本に住んでいる人は西日本へというように、東西への移動は新鮮さを感じる人が多いようです。現代の日本においては、日本全国同一の文化圏に属しているように思えますが、歴史を振り返ってみるとかなりの違いがあるようです。江戸時代は江戸を中心とした文化が全国に広がっていたように思えますが、実際は各藩それぞれの文化が花開いた時代でもあります。特に関西、中国、四国、九州などにおいては江戸周辺とは全く違う文化も見られます。室町時代においては逆に京都が政権の中心でしたが、関東では古河公方や関東管領と、関東の豪族・武将らによって社会形成されており、文化においても東西で大きく異なりました。鎌倉時代は鎌倉幕府により全国が統一されていたように見られていますが、西日本においては鎌倉幕府よりもむしろ、皇室や公家の影響が強かったともみられています。ヤマト政権以前の数千年から数万年の長い期間においては、西日本と東日本では全く別の世界でしたから、こうした長期に渡る文化の微妙な違いは、現代においても残されていても不思議ではありません。この違いが、旅行においても東西の横断が新鮮味を感じ、非日常へと導く要因にもなっています。
時代に着目した旅行テーマ
土地それぞれに歴史があり、どの時代に焦点をてるかによって全く違う旅行になります。鎌倉時代、室町時代、江戸時代などの時代区分に着目するのはもちろん王道ですが、もっと幅広く、例えば近世の民衆の暮らしに着目したり、中世の文学にまつわる旅行テーマにしたりもできます。有史以前の古墳時代、さらには恐竜がいたジュラ紀や白亜紀をテーマにすることもできます。昭和以降の現代や未来を時間軸にすることも工夫次第で可能です。
旅行において注目する時代をテーマに置くことによって、星の数ほどある旅行スポットから自分の行きたい場所を絞り込むことができるという効果があります。
人に着目した旅行テーマ
歴史上の人物でも、現代存命の人物であっても、自分の興味のある人についてを旅行テーマに据えると格段に旅行計画が立てやすくなります。人物には必ず土地がついてまわります。出生地、幼少時過ごした土地、業績を成し遂げた土地など、その人物が見てきた風景を追体験したいというのは、旅行の立派なテーマです。昔の人物の場合、出生地も足取りがはっきりしない場合もあります。そうした場合でも伝承などが残っている場所があれば、実際にそこに赴き、自分なりに推理するようなテーマも面白いかもしれません。
その人物に関連する人物に着目すると、かなり範囲は広がります。旅行エリアの中に注目する人物の旅行スポットが足りないと感じた場合、その人物の弟子、兄弟、影響を受けた人物などにまつわる旅行スポットを探せば、旅行の対象となる場所は格段に増えます。
旅行テーマを作成する上で注意する点
旅行テーマにある程度の抽象性を持たせる
あまりに具体的なテーマにすると旅行計画の断固で壁に当たる可能性があります。目的とする旅行エリアにテーマに沿った旅行スポットが不足している場合がありますし、充分に旅行スポットがあったとしても点在しており、日程内にまわれない場合もあります。
旅行計画作成の段階でそれらが判明することがよくあります。旅行会社が作るツアーの場合、テーマと実際の旅程との相違は恥ずべきことですが、個人旅行の場合、誰に迷惑がかかるわけではありませんから、違っていても問題ありません。しかし、テーマと旅程と違うこと自体、あまり気分が良いものではありません。そういう場合、結局テーマから作り直すことになるのですが、できれば、それはなるべく避けたいものです。
回避策として、テーマの抽象化があります。前節ではテーマは時代と人に注目と書きましたとおり、テーマは自分の最も興味がある時代や人にフォーカスすべきですが、それをそのままテーマに落とすと当然具体的になります。