一人旅に適した埼玉旅行の観光地・秩父・長瀞
前回の記事では、東京から離れた地方、例えば九州・四国・北海道の方が飛行機で羽田空港に一人旅を計画する場合の注意点などを述べましたが、今回は、当サイト「小さな旅の情報室スノーステージ」おすすめの場所をお伝えします。
【地方から羽田】羽田空港から一人旅の東京旅行を考えている方へ
埼玉旅行という言葉は存在しない?
東京旅行・大阪旅行・北海道旅行・沖縄旅行・九州旅行・東北旅行などは、既に単語のように使われていて、良く目にする言葉です。しかし、埼玉旅行という言葉は、私自身ほとんど目にしたことがありません。それだけ、遠方から埼玉県に旅行で来る人が少ないという表れだと思います。
埼玉県の観光地は他県と比べ劣っているということは全くなく、むしろ優れている点が多くあります。まず埼玉県内の観光地の交通の接続が良く、公共交通機関だけでかなりのスポットをまわることができます。次に歴史的に他県とは違う特色を持った土地であったため、新たな発見に出会える可能性が高いと思います。これらの点を説明しだすと長くなりますので、別の機会に書きたいと思いますが、ここで言いたいのは「埼玉旅行」という言葉はあまり使われていない割に、埼玉県の旅行スポット同士の交通の繋がりや、歴史的なストーリーは複雑に絡み合っており、先に挙げたような、他の「××旅行」というものよりも、「埼玉旅行」というひとまとまりのコンテンツとしてのストーリー性は高いような気がするのです。
では何故、「埼玉旅行」という単語があまり使われてこなかったかという点を考えると、旅行会社から見た商品価値の低さに由来すると思われます。旅行会社から見た商品価値の高い場所とは、簡単にいうと旅行会社が利益を上げやすい場所です。大人数を一度に送客して、交通手段、宿泊施設、観光施設それぞれから利益を上げることができるような場所です。そのような場所を大型観光地と呼ぶとしましょう。大型観光地となるには、もちろん自然景観や歴史的建造物、温泉など、人目を惹く旅行スポットが必要ですが、それだけでは大きな利益を上げることができません。大ホテルを中心として、商業施設、飲食店、観光施設などが街のように連なり、旅行会社、鉄道会社、バス会社などと連携した一大システムを構築する必要があります。旅行客の視点で見ると、大型観光地は利便性などの面でメリットがある一方、混雑や高価格、自然景観が損なわれるなどといったデメリットもあります。埼玉県は、幸か不幸かそのような大型観光地は全くありません。旅行会社が埼玉旅行を一生懸命宣伝したとしても、なかなか利益になりにくいのです。しかし、個人旅行、特に一人旅をする旅行者にとって、そのような事情は全く関係ありません。
一人旅での埼玉旅行がしやすい理由
一人旅は自由気ままな反面、見知らぬ土地に行く場合、心細さや不安などが多少なりともあるのではないでしょうか。旅先で道を聞いたり、地元の人に助けてもらったりといったコミュニケーションも旅の一つの楽しみということができますが、できれば迷わずスムーズに移動できるに越したことはありません。埼玉旅行の優位点の一つは、埼玉県の主要な旅行スポット、あるいはマイナーな旅行スポットでさえも鉄道駅から徒歩やバス一本でほとんど行けるという点があります。平野部であれば、関東のほとんどの旅行スポットが同様に駅から徒歩、バス一本で行けますが、埼玉県の旅行スポットの多くは関東平野から離れた山間部にあります。埼玉県はそうした場所にさえ、鉄道やバスがかなりの本数で走っています。登山や山村をハイキングしても、駅に向かえば遅い時間まで何本も電車があるというのは、絶対的な安心感があります。
一人旅で見知らぬ土地に行く場合、家族や団体で行く場合に比べ、心細さも増すと思います。例えばオフィス街や住宅街の中にポツリと一件だけある観光地の場合、そこに行くまでの行程で、場違い感を感じたり、道を聞きずらかったりというのがありがちなことです。観光地ではどこでも、親切に教えてくれるものですが、観光地を離れると親切な人もいれば、よそ者に冷たい人もいるのはやむを得ないことです。その点、埼玉県の人々は、外から来た人に対し、全く違和感なく受け入れる県民性があると言われています。これは江戸時代、埼玉県は川越藩、忍藩、岩槻藩などがありましたが、大名と家臣や民との関係が代々続いていった他藩と比較し、埼玉県の各藩の藩主は、江戸幕府の重臣が持ち回りで務める体制だったことと、江戸から近かったため国としてのまとまりが希薄だったせいだともいわれています。また江戸時代以前においても、後北条氏や関東管領など他所から来た権力者によって緩やかに支配されていたため、絶対的な地元の戦国大名のような存在もなく、地域全体で一つの国という意識が薄かったようです。
そのようなメンタリティーは現代にも引き継がれていて、県としてのまとまりがない反面、外部の人が移住しやすい雰囲気があるとも言われています。旅行者に対して、特別親切というわけではありませんが、少なくとも「よそ者」扱いされたり、分け隔てをしたりということは少ないと思います。県内、県外という区別がそもそもないといったほうが良いのかもしれません。一人旅の旅行者にとって、これほど気が楽なことはありません。私自身もともと埼玉県民ではありませんが、埼玉県内を旅行して、気を使ったり、気を使われたりという経験が全くなく、どこでも自由に見て回れて、誰も気にする人もいないように思えます。
一人旅で見知らぬ土地へ旅行に来て、嫌な顔などされると、せっかくの旅行が台無しになってしまいます。全国どこの観光地でも、観光業や宿泊業の人たちでそのような人はいませんが、旅の途中で一般人と触れ合う機会は少なくありません。一人旅で私が勧める理由の一つとして、直接旅行とは関係無いかもしれませんが、そういったこともあるのです。
東京旅行の楽しさもついてくる秩父・長瀞などを巡る埼玉旅行
初めて首都圏に来る人にとっては、東京旅行の賑やかさにも未練が残る人もいるでしょう。東京の一端に触れた上で、埼玉旅行、それも最も奥地である秩父や長瀞まで足を延ばすことは十分に可能です。東京有数の繁華街、池袋を拠点とすることによって、東京旅行兼埼玉旅行のようなプランを作ることができます。
前回の記事「羽田空港から一人旅で東京旅行を考えている方へ」でおすすめした、鎌倉と千葉県房総への旅ではこうはいきません。東京新宿と神奈川箱根をペアで観光することは可能ですが、新宿駅構内の複雑さや、ホテルのコストパフォーマンスなどから初めて来た人が気軽に行ける旅行プランとはいいがたいと思います。新宿と池袋を比較すると街の規模は新宿の方が大きいものの、ホテル・商業施設・観光施設・飲食店の導線を考えると池袋がすぐれています。旅行者がそれらをなるべく時間をかけずに、迷わずに移動するのは、新宿ではかなりの難易度です。池袋は、西武百貨店、東武百貨店、ヨドバシカメラ、ビッグカメラ、サンシャインシティといった大型の商業施設や、中小の商店や飲食店が数えきれないほど立ち並ぶ東京有数の繁華街でもありますが、街の作りはそれほど複雑ではなく、比較的容易です。池袋は一人旅の旅行者向きの良いホテルも多く、秩父・長瀞・川越といった埼玉旅行の三大観光地へのアクセスも良い上、東京旅行のエッセンスを楽しむことができます。
短い日程の場合、各観光地を十分に満喫しつつ、東京旅行のエッセンスを取り入れるということは簡単ではありません。鎌倉にしても、千葉県南部の房総にしても東京中心部を通過せずに、空港から直接向かった方がはるかに早く到着します。対して羽田空港ー池袋ー秩父というのは、遠回りになるわけではありませんから、無駄のない旅行コースといえます。
埼玉旅行の中でも、最も一人旅にふさわしい旅行先として秩父・長瀞をおすすめするのは、利便性や池袋を拠点にすることによって、東京の雰囲気も十分堪能できるということだけではありません。江戸から秩父へ向かう路は、秩父往還(ちちぶおうかん)といわれ、明治時代に鉄道が発展するまでは、もしかすると最も多くの一人旅の旅人が歩んだ、一人旅の原点といえるようなコースだからです。江戸時代、時代が進むにつれ江戸の経済が発展し、江戸やその近郊の農民や町人の人口が膨れ上がっていきました。それだけではなく参勤交代で訪れた武士たちや、行商人など全国から集まった人数も合わせると相当な数です。遠方から訪れた人にとっては、賑やかな江戸は当然見るべき場所でしたが、そこから次の旅先として選んだのが秩父でした。
江戸から秩父へは距離がさほど遠くもなく、関所を通らなくても行けるという手軽さもありましたが、秩父の地は山々で隔絶され、文化の違う異国のような土地です。さらに秩父三十四か所巡りも評判でしたから、旅行者が殺到するのも無理のないことでしょう。
池袋を起点とする埼玉旅行また
池袋から秩父・長瀞への行き方
前項で一人旅でおすすめの埼玉旅行の観光地として池袋を起点とした秩父・長瀞を紹介しましたが、次に池袋から秩父・長瀞へのアクセスについて簡単に説明します。
詳しい行き方は別の記事で紹介しますが、大きく二つに分けて、車で行く場合、高速道路から関越自動車道で花園インターチェンジをおり、長瀞に入る方法と、もう一つは西武池袋線の池袋駅から電車で秩父駅に入る方法です。
車で行く場合、長瀞までの所要時間は1時間半くらいです。長瀞から秩父の中心部までは車で30分くらいですから、車で一緒に見て回ることは十分可能です。
電車で行く場合、池袋駅から西武池袋駅まで特急の乗換無しで1時間20分程で到着します。
秩父から長瀞へは、秩父鉄道という西武鉄道グループの鉄道が走っていますが、「西武秩父駅」と、秩父鉄道の「秩父駅」は多少離れていて、歩いて15分くらいかかります。
西武池袋線の「西武秩父駅」から、秩父鉄道へ乗り継ぐには、秩父鉄道「秩父駅」の一つ手前の「御花畑駅」で乗り換えます。西武池袋線と秩父鉄道の線路は、実は繋がっており、以前は直通運転している時期もあったのですが、現在は乗り換えが必要になります。(2022年6月時点)
この秩父鉄道の各駅から秩父・長瀞の見どころの多くに徒歩で足を運ぶことができます。東西の山々に挟まれた南北に細長い地形という秩父・長瀞の特性のため、一本の鉄道だけで観光地巡りができるのです。
池袋と秩父・長瀞の中間に新しい観光地
池袋と秩父を繋ぐ西武池袋線の中間点にあたる飯能駅の近くの宮沢湖の周囲に新しい観光施設ができました。
2018年には北欧の街並みを模したテーマパーク「メッツァビレッジ」、2019年には世界的に有名なフィンランドのキャラクター”ムーミン”のテーマパーク「ムーミンバレーパーク」と相次いで開業しました。ムーミンバレーパークはキャラクターのテーマパークという点から一人旅に向いていないと思われるかたもいるかもしれませんが、一人で訪れている人が実に多く見られます。ムーミンバレーパークの客層は、テーマパークとしては異色といえるかもしれません。老若男女、グループ、少人数、夫婦、カップル、ペット連れなど、見られる旅行の形態は千差万別です。ムーミンバレーパークの特徴は、テーマパークとしては行動の自由度が高いということが挙げられます。一度チケットを購入すれば、当日中何度でも出入り自由です。ムーミンバレーパークとメッツァビレッジを行ったり来たりしてもよいですし、両パークのあるメッツァの敷地から出ても、また戻ることができます。もう一つの特徴はムーミンバレーパークとメッツァビレッジは埼玉県有数の優れた景勝地に作られたという点です。そしてその景観はムーミンの世界観と不思議とマッチしています。ムーミンバレーパークのある宮沢湖の景観、あるいはムーミン谷の情景に深く入り浸りたいのであれば、グループ旅行よりも一人旅こそが正解ともいえるでしょう。
2022年5月29日には長瀞の最寄りインターチェンジである花園インターチェンジの近くに、「深谷テラス-ヤサイな仲間たちファーム」という施設ができました。これはマヨネーズで有名なキューピーが運営する観光農園です。こちらは小規模ではありますが、駅から近いうえ、一人旅でも気兼ねなく訪れることができる、快適な空間です。観光農園というと、どうしても参加しなければならない雰囲気がありますが、ここは全くその必要はありません。併設する深谷テラスパークという公園との仕切りがなく、そこにいる人は観光農園で収穫目的か、レストランやマルシェを利用しに来たのか、公園を訪れただけの人なのか全く判別がつきません。普通の農園、農地の場合、誰かの土地ですので自由気ままに散策するのには気が引けるものですが、ここは観光農園としての参加をしなくても、自由気ままに野菜畑を見て回ることができます。このように全く人目を気にすることなく自由に散策できる農園というのは、ありそうで他には見当たりません。
深谷テラス―長瀞旅行の寄り道に最適この二つの施設はいずれも、埼玉旅行のメインコースである秩父・長瀞へのルートの途中にあります。
秩父旅行・長瀞旅行から広がる埼玉旅行
埼玉旅行をもう少し広いエリアで計画したい場合、池袋駅を拠点にして、もう一つ違う計画を立てられます。
秩父は西武池袋線で池袋から一本の電車で行けるとお伝えしましたが、池袋から電車一本で行ける観光地がもう一か所あります。池袋駅には東武鉄道の駅もあり、東武東上線という池袋から北北西に伸びる路線があります。
東武東上線の急行に乗れば、約30分で川越駅につきます。川越は小江戸川越という別名もあり、江戸時代の街並みが残っている、歴史の町です。ここもやはり埼玉旅行の代表的な観光地です。
東武東上線をさらに先にすすめば、小川町という駅があります。小川町は和紙の生産で有名で、この技術が「和紙・日本の手漉き和紙技術」として、2014年、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。
池袋発の東武東上線の電車は、この小川町が終着駅となりますが、小川町で乗換え北上すれば、東武東上線の終点駅寄居まで行けます。寄居駅は秩父鉄道も通っていて、乗り換えれば、長瀞・秩父まで行くことができます。
寄居駅乗り換え:秩父鉄道・東武東上線・JR八高線埼玉県の駅での乗り換えは、東京の大型駅と違い、そう難しくはありません。池袋から寄居までは乗る電車にもよりますがおおよそ1時間半と考えてください。
寄居から長瀞までは秩父鉄道で20分程度です。つまり、池袋から東武東上線、秩父鉄道、西武池袋線という3本の路線を使って、これらの観光地を全て周遊できるのです。
一人旅は自由気ままに、興味あるところを見て歩けるというのが、最大の魅力です。地方の私鉄とは言え、電車の本数もそこそこ多く、乗り継ぎもわかりやすく、気の向いた駅で降りて散策するという一人旅ならではの計画を立ててみてはいかがでしょうか。