子連れ旅行の難しさ
旅行会社が「子連れ旅行」という言葉を使いだしたのは比較的最近です。家族旅行、ファミリー旅行という言葉は昔からありました。子連れ旅行はもちろん家族旅行に含まれますが、あえて子連れ旅行という場合、それは小学生未満の乳幼児を連れた旅行を想定しています。乳幼児を連れた子連れ旅行は、一般の家族旅行と比べ物にならないほど、旅行における親の負担が増え、行動が制約されます。また小学生以上の子供であれば、ある程度の主体性があるため、旅行先を子供と相談して決めることができますが、乳幼児の場合それができません。そのような中で旅行先を決めるのは非常に難易度が高いと言えます。
子連れ旅行にも二種類あり、一つは両親と乳幼児の3人以上のケース、もう一つは乳幼児を親一人で連れていくケースです。当然これは後者の子連れ旅行が難易度が高くなります。しかし実際にニーズの高い子連れ旅行は難易度の高い後者のケース、特に母親と乳幼児の二人きりでの子連れ旅行です。これはニーズが高いというよりも、難易度が高いからこそどうにかしたいという要望が多いと捉えることもできます。旅行会社の国内ツアー申込数で見ると、父・母・乳幼児のグループの方が多いのですが、問い合わせや相談数で見ると母・乳幼児の二人旅行が多いという逆転現象が見受けられます。このことから、母・乳幼児のペアは実際に旅行に参加するに至らない、潜在的なニーズが高いと推測されるのです。
なぜ母親と乳幼児の2人子連れ旅行の潜在的ニーズが高いのか
旅行をするには、まず時間がなくてはなりません。家族で旅行するには、家族全員のスケジュールが合わなければなりません。次に来るのが費用です。
典型的な家族旅行のケース、会社勤務の父と母・小学生の子供の3人、新幹線での子連れ一泊旅行を考えてみますと、父と母が二人とも仕事をしている場合、まず二人の仕事が休みでなくてはできません。子供が学校に行っている場合、子供の休みも関係してきます。
会社や学校の休みは、当然土日祝日が多く、一泊旅行となれば土日、あるいは日祝などの連休にならざるを得ません。ところがホテルの料金は、土曜日または祝日前の日曜日が最も高く設定されていることが普通です。小学生であれば子供料金になるとは思いますが、大人2名、子供1名のホテル代と新幹線代の負担も少なくはありません。
もし、これが母親と未就学の幼児との2名での子連れ旅であればどうでしょうか。父親が行かないことによって、まず一名分の費用が減る上に、未就学の場合、同伴幼児1名までであれば料金は発生せず、新幹線は母親1名分で済みます。ホテルについても、幼児の添い寝は無料のケースもあります。また母親と幼児だけであれば、旅行日を平日にスケジュールすることも容易になります。
近年は父親が主夫、母親が仕事というケースも増えてきたという話も聞きますが、実際には母親が家で子供の面倒を見ているケースがほとんどのようです。仕事の内容にもよりますが、仕事で出張や外出などすることは多々ありますが、自宅で子供の面倒を見ている場合、生活時間のほとんどを自宅で過ごすことになりがちです。そうなると旅行による気分転換が必要なのは、父親よりも母親ということになるのも自然なことです。
総合的に見て、母親と幼児の組み合わせの子連れ旅行は、時間も取りやすく料金も格段に安くなるのは間違いないでしょう。また自宅から外出することが少ない母親はストレスも多く、旅行に出て気晴らしをする必要性が高いといえます。
このようにニーズが非常に高いであろう母親と幼児の二人旅は、実際には問い合わせばかりで、中々成約しません。理由はいろいろ考えられますが、想像するにひとつには、父親の反対、あるいは父親を置いていっては悪いという負い目などが考えられます。父親の反対というのは、単なる悪意や嫉妬心という意味ではなく、二つ目の理由に関連するのですが、母親と幼児だけで旅行に行くのは危険ではないか、大変ではないかという配慮からきているのだと思います。
二つ目の理由は、実際の旅行時の困難さへの不安です。ベビーカーを押しての旅行は、一人旅よりも物理的に面倒なのは間違いないですし、仮に子供が歩けるにしても、幼児の歩行速度は遅く、同じ場所を旅行するにしても、一人旅よりも遥かに時間がかかります。また食事や電車に乗るとき、旅行施設に入るときなどの子連れ旅行独特の、周囲への配慮も必要になり、これらが億劫と思い人もいます。物を買ったり、チケットを買ったりするとき大人が二人いれば、一人が子供を見て、もうひとりがチケットを買ったりする分業ができますが、母一人子一人の子連れ旅行の場合、母親がすべてをしなければなりません。ただし、この二つ目の困難さは、行動範囲をせばめることによって、移動の困難さはある程度解決しますし、周囲のほうが気をきかせてくれるので、子連れ旅行でも意外となんとかなるものです。もちろん、混雑度の高い観光地や、山岳地帯などの完全なるアウトドアゾーンなど、子連れ旅行で避けた方がよい場所もあります。ただ、旅行ルートを慎重に選べば、母一人子一人の子連れ旅行でも十分に楽しめる場所は考えられます。
シングルマザーで、母親自身の判断で旅行を決定できる場合においても、この二つ目の理由、つまり、子連れ旅行の困難さへの不安のために旅行を断念する場合があるようです。これは実際の困難さよりも、むしろ不安などの心理的側面が大きく関係します。これを解消するには、何よりも事前の情報収集です。旅行ルートを完全に把握しておけば、近所のスーパーに子連れで買い物に行くような感覚で旅行することも不可能ではありません。
子供と行動を共にする子連れ旅行は、子供を誰かに預け一人旅をするよりも満足度が高くなるのは明らかです。経費的にも、スケジュール的にも優位性のある、このような子連れ旅行はもっと行く人が増えてもおかしくないはずです。
じゃらんニュースの記事より
ホテル予約のじゃらんが運営するニュースサイト”じゃらんニュース”内で、「赤ちゃんとの二人旅におすすめ!ベビー歓迎プランのある宿4選<全国・2022>」という記事を見つけました。
その記事内ではディズニーの「オリエンタルホテル」、静岡伊東の「プロヴァンス」、神戸有馬温泉の元湯龍泉閣、福岡の「ふくせんか」という全国から厳選した4つの宿泊施設を挙げています。詳しくは記事を読んでいただければわかりますが、いずれの宿泊施設も、設備、アメニティ、食事にいたるまで全て小さな子供向けに作っています。乳児でも完全に宿泊施設ぐるみでサポートする体制ができているというのが、その記事の内容から伝わってきます。
私が知らないだけかもしれませんが、埼玉県でここまで徹底したベビーサポートのできているホテル、旅館は無いと思います。
例えば関東に住む母親にとって、静岡・神戸・福岡に幼い子供と二人で旅するというのは、不安があると思います。車で行くにしても時間がかかりすぎるし、飛行機や新幹線でも降りてすぐホテルにつけるわけではありません。
距離的に言えば、千葉県浦安にあるオリエンタルホテル東京ベイは十分行ける範囲だというお母さんも多いかもしれません。ただ、その場合観光はディズニーランドということなるのでしょうから、入園料等も考えると金額的にかなり高くついてしまいます。
また幼いお子様、特にベビーカーを使って二人きりで子連れ旅行という場合は、楽しみ方がかなり制限されてしまいます。
大手旅行会社の子連れ旅行特集
子連れ旅行は大手旅行会社にとっても、長年の課題とされています。子連れ旅行は大人だけを対象とした旅行と違い、焦点を絞りずらく、旅行商品を作るのに苦心の跡が見られます。まず、大人と子供の人数の内訳や、子供の年齢によって料金も大幅に変化しますし、旅行コンテンツにも大きく差がでます。子供といっても興味・関心の幅は広いですし、大人も同伴し、決定権は大人にある以上、大人も楽しめる内容でなくてはなりません。
結果として、フリープランを除くパッケージツアーでは、子連れ旅行を前面に押し出した大手旅行会社の旅行商品の割合は非常に少ないのが現実です。子連れ旅行と銘打ってあるツアーのほとんどは、子供の受け入れ態勢に定評のあるホテルを組み入れたフリープランで、現地についてからの行動は、旅行者自身にゆだねられるものです。
しかし、ホテルや交通を全て旅行者自ら手配するより、大手旅行会社の子連れフリープランを利用するのははるかに便利で、着実な旅行方法といえるでしょう。まずホテルや交通機関の予約の時点で、子連れ旅行は入力ミスなどおこりやすく、手間もかかります。最悪の場合、予約時に子供を入力し忘れたため、ホテルに泊まれないということも考えられます。大手旅行会社のフリープランでは、全員の氏名や年齢を一度入力すれば、全てのホテル・交通機関も同様に予約できるので、比較的間違いが少ないといえます。また万が一間違った際の、後からの訂正やフォロー面でも個人で対応するよりもはるかに頼りになります。大手旅行会社の子連れフリープランに選ばれるような宿泊施設は、子連れ対応も万全であり、宿泊時のトラブルが少ないのは間違いありません。
例えば近畿日本ツーリストで下記のような子連れプランを集めたページがあり、子連れ旅行を検討している人は必見のラインナップで、全国各地の子連れプランが用意されていますが、残念なことに埼玉旅行は一件もありません。
JTBでも以下のような家族・子連れ旅行の特集があります。
JTBの子連れ旅行特集では、全国を9つのエリアに分け、それぞれおすすめのホテル・プランを掲載しています。首都圏では千葉県が2つ、神奈川県が3つの宿泊施設が紹介されていますが、こちらも埼玉県は一件もありません。
子連れ旅行で最もおすすめのコース(埼玉県長瀞エリア)
では埼玉県の、母親と子供の子連れ旅行において、具体的にどのような旅行コースがあるかというと、次のコースを挙げておきます。興味のあることは人によって違いますから、このルートが必ずしも最も楽しめるルートとは断言できません。しかし、子連れ旅行のしやすさと、観光的要素のバランスを考慮すると、このルートが現時点で最善と言えます。
この旅行コースは埼玉県西部の長瀞エリアを巡るコースですが、もちろん居住地によってはこのエリアに来るまでの交通が不便だという場合もあると思います。埼玉県や隣接する群馬県には空港はなく、遠方からこのエリアにアクセスするには、新幹線の熊谷駅から秩父鉄道に乗り換えるのが一般的です。飛行機を利用する場合は、東京都の羽田空港、千葉県の成田空港から電車や新幹線を乗り継ぐことになりますが、やはり最後は秩父鉄道に乗り換えます。
秩父鉄道は埼玉県北東部東部の羽生から埼玉県南西部の三峰口まで伸びる、埼玉県のみを走る一本路線です。関東圏の私鉄の中では最も混雑度の低い路線の一つで、子連れでも安心して乗れる鉄道と言えるでしょう。この旅行コースの出発点は熊谷駅に設定しました。熊谷駅は新幹線とJR在来線の駅もあり、秩父鉄道の熊谷駅と構内で連結しています。このJR熊谷駅と秩父鉄道熊谷駅の乗り換えの説明は、下のページで解説しています。
新幹線熊谷駅から長瀞・秩父へ 長瀞へのアクセス1:熊谷から秩父鉄道で長瀞へ埼玉県:長瀞エリア子連れ旅行コース
長瀞での子連れ旅行を考えた場合、長瀞駅周辺のみで完結させることも可能ですが、より旅行らしく、広範囲の移動を伴う子連れ旅行コースは、以下のコースがおすすめできます。
1日目
熊谷駅 ― 寄居駅 ― (タクシー7分) ― 川の博物館 ― (タクシー7分) ― 寄居駅 ―
長瀞駅 ― 長瀞岩畳商店街(駅前より続く) - 長瀞岩畳 - 長生館(宿泊)
2日目
長生館 ― (徒歩3分) ― 長瀞駅 - (シャトルバス) ― 宝登山ロープウェイ ―-
(シャトルバス) ― 長瀞駅 -ふかや花園駅 ― (徒歩5分)― 深谷テラス ―
ふかや花園プレミアムアウトレット(駅直結) ― ふかや花園駅 ― 熊谷駅
幼い子供との二人旅で特に重視すること
宿泊するホテル・旅館が幼いお子様への配慮がなされているかということも、もちろん重要なことです。
しかし旅行全体を考えた場合、更に重視しなければ点がいくつかあります。
まず、その宿泊施設へのアクセスについてです。幼い子供の気持ちはわかりませんが、長距離・長時間の移動は子供にとって、もしかしたらそれが、苦痛であるかもしれません。遠くに行ってしまうと、簡単に引き返すこともできなくなってしまいます。また、体調を崩した場合など、見知らぬ遠い土地では戸惑ってしまう可能性もあります。
次に宿泊施設からの行動半径は、できるだけ小さいほうが良いということです。せっかく旅行に来たからには、少しでも観光もしたいし、ショッピングや食べ歩きをしたいものでしょう。ベビーカーを押して、人込みの中に入っていくのはストレスを感じる場合もあると思います。
長瀞はそのいずれの条件、子連れ旅行ではどうしても優先させなければならない問題もクリアしています。
狭い範囲にコンパクトにまとまった観光地長瀞
長瀞のもっとも中心となる観光スポットは長瀞岩畳という場所です。この巨大な岩盤と川の流れが織りなす風景こそが、長瀞の最も代表的な景観であると言われています。
秩父鉄道の長瀞駅から、この長瀞岩畳までの距離は200mほどしかありません。そして、それを繋ぐ道周辺は、土産物屋、旅館、食事処、デザート店などがひしめいています。
極端に言えば、この直径200mの円の中で、小さな旅行が一つ完成するのです。
また、駅から逆方向に200m行けば、国道19号線に出ます。国道といっても狭い道です。信号を渡るとそこに大きな鳥居が現れます。信号を渡ってまっすぐ伸びる道が、長瀞を代表する神社である宝登山神社の宝登山参道と呼ばれる表参道です。参道沿いにもやはり多くの飲食店や土産物店、観光施設、宿泊施設が並び、その突き当りには宝登山神社と宝登山ロープウェイがあります。
宝登山ロープウェイの山麓駅から、標高497mの山頂近くにある山頂駅までわずか5分です。このロープウェイにはベビーカーを折りたたんでの持ち込みをすることができます。山頂駅から徒歩7分の場所に、宝登山小動物公園があります。
長瀞駅から宝登山ロープウェイ山麓駅までは大人の足で20分程度はかかりますが、15分~20分間隔で無料のシャトルバスがでています。無料シャトルバスはロープウェイ手前の2023年にオープンした長瀞トリックアート有隣倶楽部でも停車します。
他の観光地などと比較すると、長瀞という観光地は旅行要素の中心部への集中度が高いという点においては突出しています。子連れ宿泊旅行では、広範囲を転々と見て回るというのは、相当に根気がいりますし、何より子供にとってもストレスです。長瀞の宿泊旅行は、子連れ旅行先としては、有利な条件がたくさんあるのです。
子連れ旅行のおすすめの宿は、長瀞駅から徒歩3分、岩畳直結の旅館「長生館」
長瀞の「岩畳」は大正12年に国指定名勝天然記念物に指定された、埼玉県を代表する景勝地です。さざ波一つない鏡のような水面と、畳のように平らな岩を、何百メートルにわたり敷き詰めたような河原はここでしか見られない光景です。
長瀞岩畳この長瀞岩畳からわずか徒歩一分のところに一軒の旅館があります。
長瀞の「長生館(ちょうせいかん)」は大正元年創業の老舗旅館です。長瀞ラインくだりの船着き場のすぐ横の高台の二階建ての建物は、長瀞渓谷に平行して立っており、全室から岩畳と長瀞渓谷が見えるように設計されています。旅館のレストラン横のテラスからは渓谷側は庭園に出られます。その庭園から岩畳へ降りていけることを考えれば、長生館は「長瀞岩畳」直結の宿という表現をしてもおかしくはありません。
長瀞で最もおすすめの旅館:長生館もし雨などで思うように旅行計画をあきらめ、部屋で滞在することになったとしても、この旅館にいるだけで長瀞の核心部分を眺めていられます。「長生館」は子連れ旅行に特化しているとは言えませんが、子連れ旅行への対応面では何ら問題なく、スタッフの熟練度などでは、子供向けに特化したホテルをむしろ上回る部分があります。
子連れ旅行に最適なベビーカー
蛇足化もしれませんが、最後に旅行で役立ちそうなベビーカーを紹介したいと思います。
コンビ株式会社という浅草に本社のある、ベビー用品やベビーアパレルの会社が出しているベビーカーです。安全性に配慮され、頑丈な作りであるにも関わらず折り畳みでき軽量なベビーカーです。
この会社は何種類かのベビーカーのラインナップがあり、いずれも基本的性能が優れたハイエンド商品といえるものばかりですが、旅行に便利という点において、興味を引く商品が
「SUGOKAL minimo(スゴカルミニモ)」というベビーカーです。
軽量・コンパクトタイプのベビーカーであるにもかかわらず、あらゆるハイテクが施されています。
まず最も目を引くのが、その場で360度ターンできるという性能です。例えばエレベーターのような狭い場所に入った場合、ベビーカーが前向きに入ると、後ろ向きに出てくるしかありませんが、このベビーカーの場合Uターンして出てこれるのです。
お子様の向きが背面・対面の切り替えを簡単に出来る機能や、ワンタッチ折り畳み、お子様をショックから守るエッグショックなど、旅行に役立つ機能が目白押しです。ここで全てを紹介すると記事の趣旨から外れますので、興味のある方はリンクから調べてください。
子連れ旅行において、ベビーカーは最も重要なアイテムです。利便性や安全性を考えると、当然高価なハイエンド商品、有名メーカー品ということになりますが、ベビーカーは子供が成長したら無用の長物になってしまうため、どうしても倹約してしまいがちです。昔に比べ、メルカリや買取店など、引き取ってもらう選択肢も増えていますから、その分を考慮に入れ、多少なりとも良いものを選んでおいたほうが良いと思います。